相続により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を一定の条件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円の特別控除を受けることができます。この記事では、空き家に係る3,000万円特別控除の制度の概要、適用要件、必要な手続きについて解説します。
空き家問題と特例創設の背景
日本では人口減少や高齢化に伴い、適切に管理されない空き家が増加し、倒壊や犯罪の温床になるなど、地域の生活環境に悪影響を及ぼしています。国土交通省の調査によると、平成26年時点で全国の空き家のうち約75%が旧耐震基準で建築され、そのうち約60%が耐震性のない建築物と推計されています。
こうした状況を受け、相続した空き家の発生を抑制して円滑な売却を促進するため、平成28年度に創設された特例です。
参考:国土交通省|平成26年空家実態調査 調査結果の概要のポイント
譲渡所得から最大3,000万円の控除
相続または遺贈により被相続人の居住用家屋とその敷地(以下、「対象家屋等」)を取得し、一定の要件を満たして譲渡した場合、その譲渡所得から最大3,000万円が控除されます。譲渡所得とは、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額を指します。控除額が3,000万円を超える場合は譲渡所得税が課税されません。
特例の適用要件
特例の適用を受けるための要件について解説します。
被相続人の居住用家屋とその敷地であること
特例の対象となる家屋は、被相続人が相続開始直前まで居住していた家屋(区分所有建物を除く)で、昭和56年5月31日以前に建築されたものに限られます。また、その敷地も特例の対象となります。
相続開始直前に被相続人が一人暮らしであったこと
被相続人が、相続開始直前に対象家屋に一人で居住していたことが条件です。ただし、被相続人が要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合で一定の要件を満たせば、特例の対象となります。
相続開始から譲渡までの間空き家であったこと
相続開始から譲渡までの間、対象家屋等を事業用、貸付用、居住用に供していないことが条件です。譲渡時点で家屋を取り壊した更地の状態であっても、一定の要件を満たせば特例の対象となります。
譲渡価格が1億円以下であること
対象家屋等の譲渡価格が1億円以下であることが条件です。共同相続人がいる場合や、複数回に分けて譲渡する場合も、合計の譲渡価格が1億円以下でなければなりません。
令和6年以降の特例要件の緩和
令和6年1月1日以降の譲渡については、特例要件の一部が緩和されます。買主による耐震改修や取り壊しが適用対象となること、老人ホーム入居者の持家も特例適用可能になることについて解説します。
買主による耐震改修や取り壊しも適用対象に
令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡後に買主が耐震改修や家屋の取り壊しを行った場合も、一定の要件を満たせば特例の対象となります。ただし、相続人が3人以上の場合の特別控除額の上限は2,000万円に引き下げられます。
参考:国土交通省|空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)
老人ホーム入居者の持家も特例適用可能に
被相続人が要介護認定を受けて老人ホーム等に入所していた場合、被相続人の居住用に供されなくなった家屋でも、一定の要件を満たせば特例の対象となります。これにより、特例の適用範囲が拡大されました。
特例の適用を受けるために必要な書類と手続き
特例の適用を受けるために必要な書類と手続きについて、被相続人居住用家屋等確認書の取得、譲渡所得の内訳書の作成、確定申告と必要書類の提出を説明します。
被相続人居住用家屋等確認書の取得
特例の適用を受けるためには、対象家屋等が要件を満たしていることを市区町村長が確認した「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する必要があります。確認書の交付申請には、被相続人および相続人の住民票の写し、対象家屋等の登記事項証明書、売買契約書の写しなどが必要です。
譲渡所得の内訳書の作成
確定申告では「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」を作成し、申告書に添付します。内訳書には売却価格や取得費、譲渡費用などを記載します。
確定申告と必要書類の提出
対象家屋等を譲渡した年の翌年、確定申告期限までに税務署に申告書を提出します。その際、被相続人居住用家屋等確認書、譲渡所得の内訳書、売買契約書の写し、登記事項証明書、耐震基準適合証明書など、必要な書類を添付します。
参考:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
特例と併用可能な制度
空き家に係る3,000万円特別控除と併用可能な制度について解説します。
小規模宅地等の特例との併用
相続税の申告において、被相続人の居住用宅地について「小規模宅地等の特例」の適用を受けた場合でも、一定の要件を満たせば、3,000万円特別控除との併用が可能です。ただし、小規模宅地等の特例は、相続税の申告期限まで対象宅地を所有していることが要件となるため注意が必要です。
居住用財産の3,000万円特別控除との関係
居住用財産の3,000万円特別控除の適用を受けた年とその後2年間は、特定居住用財産の買換え特例など他の特例の適用を受けることができません。しかし、空き家に係る3,000万円特別控除の適用を受けた場合には、これらの制限を受けません。ただし、同一年に両方の特例を適用する場合、合計の控除額は3,000万円が上限となります。
特例の適用における注意点
特例の適用における注意点として、共同相続人がいる場合の譲渡価格の合算と譲渡所得の相続税の取得費加算との選択適用について解説します。
共同相続人がいる場合の譲渡価格の合算
対象家屋等を共同相続した場合、相続人全員の譲渡価格の合計が1億円以下でなければ、特例の適用を受けることができません。また、相続開始から3年以内に譲渡する必要があります。
譲渡所得の相続税の取得費加算との選択適用
相続した土地等を相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡した場合、「譲渡所得の相続税の取得費加算の特例」の適用を受けられます。この特例は、3,000万円特別控除との選択適用です。
一般的に3,000万円特別控除の方が有利なケースが多いですが、相続税額が3,000万円を超える場合や相続財産のすべてを譲渡する場合などは、取得費加算の特例の方が有利となる可能性があります。
まとめ
相続した空き家を売却する際の3,000万円特別控除は、一定の要件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円の控除を受けられる制度です。
特例の適用を受けるためには、
- 被相続人の居住用家屋とその敷地であること
- 相続開始直前に被相続人が一人暮らしであったこと
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
などの条件を満たす必要があります。
また、令和6年以降は買主による耐震改修や取り壊しも適用対象となるなど、要件が一部緩和されます。特例の適用を受けるには、被相続人居住用家屋等確認書の取得、譲渡所得の内訳書の作成、確定申告と必要書類の提出が必要です。
空き家の発生抑制と円滑な売却を促進するこの特例制度を有効に活用するには、専門家による相談やサポートを受けることをおすすめします。特例の要件確認、必要書類の準備、手続きのサポートなど、空き家の売却を検討する際には不動産の専門家や税理士に相談することで、スムーズに進めることができるでしょう。
池戸建設株式会社では、空き家の適切な管理や売却、有効活用に関する無料相談を行っています。特例の適用や売却の検討など、空き家に関するお悩みがありましたら、ぜひ当社の専門スタッフにご相談ください。